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地面に植えるだけが農業じゃない

  • 著者:林 真司
  • 投稿日:2018年12月20日
  • 更新日:2020年2月5日

 農業の効率化が叫ばれて長くの時間が経っている。現場はどのように変わっただろうか。答えは一部を除いては、従来の農法から変化なしだ。なぜ変化しないかというと、農家は経営をしていないので、投資という考えがまずなく、実績のない新しい農法や、収穫まで時間を要する改植は特に嫌う傾向がある。今年や来年の収穫が大事だから、リスクを追いたくない。前例のないことは勉強しようという意識はなく一切排除。全てが近視眼的で現状維持をするのが精一杯というのが正直なところだろう。紀の川市でも規模拡大をしようとしている農家はやはり少なく、当園のように規模拡大をしようとしているところがあれば、少し浮いてしまい、情報が出回り、行政関係の組織などからセミナーの案内などの連絡が入る。残りの余生を優雅に農業をしながら得た収益が年金の足しになれば良いと思っているのならそれでも全く問題ないが、最近増えている若い志しのある農業者であれば、従来の農法、やり方を引き継いでいるだけでは絶対にだめだ。それで良いのであれば皆が成功している。でも実際は皆が成功していない。成功していないということはやり方が悪いのだ。現状維持では何も起こらない。

 

 

栃木県農業試験場にて

 

 先日、新しい農法を勉強するために栃木県に行ってきた。訪れた栃木県農業試験場では、根圏制限栽培という農法を開発、実証し、一定の成果を納めており、これを導入している農業者も少しずつではあるが増えてきているようだ。書いて字のごとく、根の圏域を制限するということ。通常であれば、木は地面に植えるため、根が伸びたい放題伸びるのだが、この農法は根の広がりをシートで防いでしまうというやり方だ。根が広がらないと、木は根とのバランスをとろうとするため大きくならない。大きくならないということは作業効率が格段にあがり、木に養分がいかないために、木は質のよい実をつけようとする。このように良いこと尽くめなのである。

 

 

根はシートで仕切られているため地面とは繋がっていない。
根はシート内の培養土に植えられているのみ。
木の形、大きさは揃っており、作用の効率が1.5-2.0倍ほどになるとのこと。

 

 これにはある程度の導入費用がかかるが、単純に計算すると同じ人数で、1.5-2.0倍に収入を増やすことができるのだ。規模拡大を進めている農業者にとってこれほど良い農法はないだろう。また、この農法は土がいらないため、極端な話、ビルの屋上でも導入が理論上可能。ただ、水道がばかにならないようなので、ビルの屋上で水道以外の水の供給手段があれば可能だが、なければおすすめはしない。通常は井戸を掘って水を供給する。根が張っている範囲が狭いため、そのわずかな範囲を常に湿らせておかないと、乾燥による枯れが生じるため、大量の水を要するのだ。

 

 農業経営者であれば、これを導入するかしないかは、考えるまでもない。農業の分野が恵まれていることの一つに、スピードが遅いということがある。昨今はほとんどの業界でもそうだと思うが、スピードが命取りになる場面は非常に多い。だが、農業はあくまでも植物のペースがあり、しかもきちんと産業として発展していない今までの流れがあるので、農業者自体が情報やスピードに疎い傾向にある。ということはその中で自分が始めれば良いわけで、他との違いとつけやすいのは歴然。このような好条件の中で、事業を広めていけるのは、私のような小心者にはうってつけである。

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プロフィール
運営者の顔写真

イチゴ農家の次男として生まれる。
明治大学卒業後、地元の地銀に入行するも、会社のカルチャーが全く肌に合わず1年で退社。退社後すぐにフィリピン留学でフィリピンのアンヘレス地方、セブ島で計約半年過ごす。
その後オーストラリアでワーキングホリデーを約半年行い、他国の桁違いの農業を初めて知る。ワーキングホリデー中にセブ島の語学学校でマネージャーをする話が決まり再度渡比。
語学学校では入社後半年足らずで急に経営者が変わることになり、またもカルチャーが合わなくなり1年半で退社。
セブ島で転職活動をし、比系大手IT会社に入社。当時付き合っていたフィリピン人の彼女(現妻)の妊娠出産がきっかけで1年で退社し、いつかは必ずやろうと思っていた農業をすることを決意し帰国。